世界の秘密を、猫は知ってる。

ある日ある朝気づいてみたら、アタシはたくさんの毛糸玉の中に埋まっていたわ。温かくて、ちょっと湿り気のある、少し窮屈だけど、とても心地のいい毛糸玉。それ以外の世界は眩しくてギュッと目を閉じていたけれど、あの温かさの中にいたから安心だった。世の中には「光り」があるから眩しいんだわ、って気が付いたのは、もうちょっと後のこと。だけどとにかく、その毛糸玉と眩しさの合間や隙間で、アタシは「生まれたんだ」ってことに気づいたの。そして、毛糸玉だと思っていたのは、アタシの、あと5匹いる兄弟姉妹たちだった。


アタシが世の中という海へ航海に出てから、「ニンゲン」は常にそばにいたわ。ママは「ニンゲンのことは上手に使いなさい」というようなことを言ったかもしれないし、本でも読んだ*1けれど、詳しい意味はわからなかった。初めて会ったニンゲンのことも、覚えているような気もするけれど、今となっては曖昧ね。
そして、ある日ある時ある朝から、今のニンゲンと一緒にいるようになったの。せっかくいい気持ちで毛糸玉の中に埋もれていたのに、ひょいと持ち上げられたんだったわ。おまけに、新しいニンゲンは何だかいろんな声で鳴いていたわね。
「このこはわたしがつれていきます〜〜」
「おじょう〜〜これからよろしくね〜〜」
「おまえはかーわいいね〜」
「おまえほんとうはことばをわかってるんだよね〜」
どれもアタシには理解不能(今は大体は分かってあげられるけど)! 
そのあと、ムギューっとやられたり、あの毛のない顔をこすりつけられたりしてビックリしたけど、そして、いつの間にかたくさんいた毛糸玉たちもどこかへ行ってしまったけれど(ママでさえも!)、とにかくアタシは、今のニンゲンと一緒に暮らすことを始めたわ。ニンゲンの時間で言うと、約5年前の話。


うちのお嬢が私の処へやってきたのは、2000年の初夏でした。その頃私は家出をしていて、一人暮らしの気ままな生活。部屋には、腹違いの種違いの種族違いの実の兄弟、イタチアニキが2人(※一般には「フェレット」。現在は天上界所属)既に暮らしていたけれど、知り合いのところで「生まれてしまった」仔猫たちを友人に紹介するため顔見せに行った日に、「ビビビ」とネコビームにやられてそのまま連れ帰ってしまった……それが、嬢と私との馴れ初めです。


ネコさんが私にとってどんな存在か、ということを言葉にするのはとても難しい。「家族」というのは一般的な言い方だけど、もっとこう、続柄まで明らかにしようとすると、言葉をいくつ賭しても言い尽くせない。彼女は私の「妹」でもあり「姉」でもあり、時に「子分」でもあり「アイドル」でもある。2年前に家に戻ってからは、実の家族もヤツにメロメロで、父などは嬢のことを「太郎」と呼んで(オナゴです…そして「本名」も別にあります。勝手に名前を付けるのは愛情が深い証拠)愛でているし、自分のことは「マネージャー」私は「オーナー」と役柄を棲み分けて、「タロウ、オマエはどっちの言うことを訊くんだ、え?」なんて詰め寄っています。要するに親ばかで猫バカ、私は子バカ。みんなバカバカ。


氣志團の團長が、自らが率いるバンドのBlog(http://kishidan.livedoor.jp)で愛猫のことを紹介しています。その様子を、「薔薇と涙」のU子さん(id:dan127u)が「すごく抑えて書いている」と表していますが、共感です。團長があんなに常識人だとは(感づいていたけど)思わなかった!(笑)
私自身、誰かに「ネコさんのことを語れ!」と言われたら、相手が鼻白むのも恐れず何時間でもくだを巻くことでしょう。あるいは、ネコさん「と」語れ! と言われたら、相手がフンと鼻を鳴らして香箱を折ろうと、一晩だって話しかけつづけることでしょう。でも、その様子を知らない人に知られるのは、ちょっと怖い。なぜなら、動物の(または「と」)話をする時の自分は、限りなく油断していると思うから。自分の心の、フニャフニャした部分が明らかになってしまうと思うから。だから、相手がネコさんについて特に思い入れていないかもしれない、という状況があるときは、なるべく「気取られないように」話を始める…というような癖が、予めついています。そしてそういう距離感が、あの團長の書き込みからも感じられた気がしたのでした。


……というわけで、日記でネコさんのことを書く日は来ないなー、と思っていたけれど、つい(に)やってしまいましたがな。ネコバカを明らかにすることは、自分としては全然やぶさかでないけれど、「そういう風に見えちゃう」ことについては少しだけ恐れるというか、それが理性というものであるかどうかはわからないけれども、「ああ、この人もか」っていうのは限界まで避けておこう、おきたい、という気持ちではありました。
反面、ネコさんを愛でている人と、「アイツら、本当はこっちの言ってること全部わかってるよね? マジで!」という話に花を咲かせたい気持ちも(すごく)あったりする。そこを頑張って踏ん張って、ここではちょっと違うからな、と思っていたのに。のにのにー。


しかし、この感覚って、実は氣志團ちゃんに対しても発動されているのだろうなと思います。だんだん、仕事中でも身も蓋もなく明かし始めてはいるのだけど、「大丈夫かな? 言ってもいいかな?」みたいな感覚はずっとある。いや、そんな控えめじゃないな。ちょん、と突つかれたら、それこそ堰を切ったように氣志團ちゃん話が出てきそうになるのを、「待て待てー、もうちょっと様子を見ろー」と必死に言い聞かせて留めているという感じ。まあ、そこで言えてない部分をこの場でスパークさせているわけなので、イイと言えばイイのですが……。
そうか、私も、見ず知らずの人にネコさんの話をするような心持ちでいれば、氣志團ちゃんについてもっと平静を装っていられるのかも! 心がけてみよう、無駄な努力だと思うけど。


ちなみに、世の中に星の数ほどネコさんが居ようと、「うちの子が一番可愛ぇぇぇぇ」と思う気持ちは私も同じですよ、U子さん。どの子を見てても「飽きない」というのと、「うちの子が可愛い」と思うのは、似て非なる気持ちなのです。うひひひひひひひ(笑) シンガプ〜ラがなんスカ! 雑種上等! カギしっぽ万歳! うちの子最高!
あ、今お嬢が「バカね…」という顔でこっち見た。ショボーン

*1:猫語の教科書 (ちくま文庫)ISBN:4480034404:ニンゲンも愛読してます。