決して開けられない扉の向こうに。

鼻をずびずばしながらいつもより1本遅い電車に飛び乗って稽古へ。大体、今回の日程が発表されて一番気になったのは、明日よりも今日のことだったのだ。どうなの、一体どうなってるはずなの?!
果たして、電車に乗ってから携帯を開いて見ると、Tちゃんから第一弾のレポートメールが着信していた。


「やっぱり今日仕込み中って書いてあるー!」


フガーッ! やっぱり!? てことは楽器車とかツアートラックとかそういうのももう来てるのかしら?! いやいや、ここはひとつ平常心で……てか、せいぜいセットの立て込みくらいかもしれないじゃん、まだ今夜はさ(自己暗示)。


着いてみると、エントランスには明かりが灯っているが人影はほとんど無い。ふむふむ。や、でも私はね、今日は稽古に来てるんですからね、上で何やってようと、そそそそんなの気にしませんよ! ただ、入り口の「本日の使用予定」のところに「HALL GIG TOUR 仕込み」って書いてあるのは見逃さなかったわ! そうか、やっぱりこの中で着々と準備が進んでるんだ……。


稽古の方は、「くるみ」が終わったばかりなので、落ち着いた雰囲気での通常メニュー。電車1本分スタートには少し遅れてしまったけれど、最近レッスンを受けているピラティスが本当に効いているのか、身体が少し伸びやすいというか、骨盤の位置がちゃんとわかる気がする。ぬぬぬ! これは……この調子で行けばまだまだもっと柔らかくなれるのか!? それに、ピルエットは明らかにいつもより調子が良かったぞ? ふぬー来年に向けて攻略ポイントが見えてきた気がする。嬉しい……。


……と、人体の不思議に感動しながら終了していると、Tちゃんが汗を拭きつつ満面の笑みを浮かべてアイコンタクトしてくる。


「Doよ?(笑)」


「そっちこそ、Doよ?(笑)」


こちらも吹き出しそうになるのをこらえていると、突然、彼女が壁のところにあるスイッチをカチリと切り替えた。


『〜♪』


「!!!!!!」


そうなのだ。「ここ」は同じ施設の中なのだ。そして、彼女がオンにしたのは、各室共通の大ホール音声モニタ用スピーカー……!!!


「これって!!!」


「だよね!?!?」


「ちょちょちょちょちょちょちょちょっと待ったーーーー!!!!(動揺)」


忘れてた。確かにそうだ。本番の時はいつもここでホールの様子を伺いながらウォームアップしたりしてるのだもの。でも、今日ばかりはその裏技には全く気づかなかったわ……。


しかし残念ながら、この段階で聞こえてくるのは、そこで何が行われているのかまでは皆目検討がつかないようなマイクテスト風の音声だとか、ボリュームチェックなのだろうか、全く関係のないアーティストの曲だとか、そんなものばかりだった。いや、実を言うともしかしたらあれは……と、想像力をたくましくさせるものもなくはなかったのだけれど、この際「そこ」に人の気配があるというだけでもう、幸福という名の風船はパツンパツンに膨らんで、今にも弾けて飛んでいってしまう勢い。いやーもう、大変。本当にこんなところに来てくれてるんだな〜〜〜……。


実際の距離なら、ちょっとあの階段を下りて、扉を二つ三つ開ければいいだけ。ただ、それができないからこそ、こんなドキドキが味わえるのだ。だから今は、このアホみたいなテンションをとことん楽しむしかない。そうやってもう365日以上も突っ走ってきたのだ。

いつも思うことだけど、coincidenceの存在は恋心を加速させる。まあ、それ言っちゃただ生きてるだけで毎日大変なことになってしまうのだけど、本当にこの1年は、どこを切り取っても楽しいことばかりで全く目が離せない。明日も存分に楽しんできます。遠くからお越しの方はどうぞ気を付けて。それじゃ、明日、あのツリーの下で!