この胸のトキメキを。
「アタシ、きしだんのライヴ行きたいんスよね〜」
ふーっ、っとタバコの煙を細く吐き出しながら、同僚のアキちゃんはこともなげに言った。私はまだ食べかけの讃岐うどんが鼻から飛び出そうになるのを必死でこらえながら、へ、へ、へぇぇ、と言うのが精一杯だった。
アキちゃんは25歳。可愛らしい顔立ちながら焼酎とタバコと納豆をこよなく愛し、アフターファイブはコスプレキャバ嬢に変身する(ホントかよ!)、なかなかに男らしいギャルである。ここ半年……つまり、新しいカイシャに勤めを移してから、私はこのアキちゃんともう1人いるお嬢さんと一緒にお昼を食べているのだけれど、彼女たちとはこれまでついぞ、趣味的な話なんかしたことはなかった。まあ、隣の席に座っているお嬢さん(仮にカトゥさんとしておこう)あたりはそろそろ、私の携帯電話に氣志團ちゃんの液晶クリーナーがぶら下がっていることを見抜いていると思うのだけど、特に突っ込まれもしなかったし、私も自分からカムアウトなんかしなかった。
讃岐うどんをひとしきりやっつけて、さらにひと呼吸置いてから私はいった。
「ここここんどね〜いくんだ〜〜、きしだん〜〜」
「えっ嘘! マジすか!」
「うん、えーと、あのー、横浜? アリーナ?(のあとに沖縄?)」
やあだぁ、という顔で真向かいのカトゥさんが笑っている。だだだってホラ、といって私は液晶クリーナーを取り出す。
「ほらこれ。あ、でもね、いやーえーと、そのー友達に貰っちゃってー」
(ごめんなさい團長私はうそつきです)
「結構好きだよー? なんつーかホラ、もうネタが丸わかりだからさー」
(ごめんなさい團長「結構」だなんて大嘘ですわたしダイスキなんですーーー)
一体なんでこんなに言い訳してんだオレ、というくらいな挙動不審ぶりで、必死に場を(否、自分を)取り繕うオレ。
「あっそうだ! 私あのボーカルのひととすれ違ったことあるしー」
(他人行儀でスミマセンスミマセンすみませ(略))
「え! セロニアスと!?」
アキちゃんは目を輝かせて言った。そしてまた細くタバコを吐きながら、
「いいッスよね〜。アタシ、着メロがあれなんですよ。スウィンギンじゃぱ」
「……ニッポン?」
「あ、そうそう」
「いやーんマジでェ〜(1トーン上がる)」
そういえば1週間ほど前、アキちゃんの携帯が不意に鳴ったことがあって、「あれ、『恋人』じゃね?」と思った瞬間があったのだけど、マサカ、の3文字がその直感を打ち消したのだった。でもあながち間違いじゃなかったのね。いや間違いは間違いなんだけど。てことはナニ、アキちゃんはつまりその、KISSESなワケなの?
「ハァ〜、セロニアスが慰問に来てくれないかな〜会社に〜」
アハハ、とカトゥさんも笑っている。そそ、そうだねーセロニアス(なんて呼べねーよ!)会社来てくれたら凄いよねー。てか男闘呼塾から5分くらいだからさココ、案外不可能じゃないかもしれないよね、ってナニ考えてんだオレ!! ていうかアキちゃんあなたはつまりその……
「じゃ、帰りますかね、カイシャ」
は、はい……。
いやーそれにしても、やっと今回の仕事が手を離れそうになって、ココロに余裕が生まれれば生まれるほど放置しているこの日記が気になって、今日は何か書こう、明日こそは何か書こう、と思っていた矢先のこんな一コマ。どうしようどうしようどうしよう、「ん? 氣志團? まあ好きっていうか、嫌いじゃないっていうか、そこそこ聞くよ、みたいな?」なんて態度でスタートしちゃったんだけど、守りきれるかしら……あががががが。